アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.213, L.15】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.213 L.15 (定理10*2について) X



  • 限定的同意が仮定されています。色々な可能性がありますが,特に∀i:xRiyと仮定しました。(強いパレート基準(P*, P.66)があるため,∀i:xRiyに加えて1人でもxPiyの個人がいれば,xPyとなります。つまり,∀i:xPiy→xPy。)
  • ∀i:xRiyなので,どの個人もyPizであればxRiy &yPiz→xPizになります。また,どの個人もyIizであればxRiy &yIiz→xRizになります。
  • 「中立性と非負の反応性より,...yRz→xRz」の議論は,定理10*1と同様です。
    • 定理10*1では,∀i: [(xPiy→zPiy)&(xIiy→zRiy)]から,xRy→zRyを導いたのでした。
    • 今回は,∀i: [(yPix→xPiz)&(yIiz→xRiz)]が得られています。
    • 定理10*1の式の展開で,x→y, y→z, z→xと置き換えた式になっています。
    • よって,結果も同様に置き換えて,yRz→xRzが得られました。
  • 「同様にして,zRx→zRy」の議論は,以下のように考えます。
    • 定理10*1では,∀i: [(yPiz→yPix)&(yIiz→yRix)]から,yRz→yRxを導いたのでした。
    • 今回は,∀i: [(zPix→zPiy)&(zIix→zRiy)]を考えます。(この式は確かに成立します。どの個人もxRiyなので,zPixであればzPix &xRiy →zPiyです。また,zIixであればzIix &xRiy→zRiyになります。)
    • これは,上の定理10*1の式の展開で,x→y, y→z, z→xと置き換えた式になっています。
    • よって,結果も同様に置き換えて,zRx→zRyが得られました。
  • yRz→xRzとzRx→zRyがあるため,(xRy & yRz & zRx)→ (xRy & xRz & yRz & zRx & zRy)です。
  • 右辺の中の順番を入れ替えて,(xRy & (xRz & zRx) & (yRz & zRy) )→ (xRy & yIz & xIz)です。
  • さて,yRxが仮定されました。
  • 強いパレート基準の下では,∀i:xRiyと∃i:xPiyが成立するとxPy,つまりxRy & 〜(yRx)です。よって,yRxであれば,xPyが成立しません。もともと∀i:xRiyでしたから,〜(∃i:xPiy)が 必要です。つまり,全員∀i:(xRiy & yRix),すなわち,∀i:xIiyとなります。
  • ∀i:xIiyの条件下で,xPiz, xIiz, zPiy, zIiyを前提すると,それぞれ,次のようになります。
    • xPizの場合:xPiz→xIiy & xPiz → yPiz
    • xIizの場合:xIiz→xIiy & xIiz → yIiz
    • zPiyの場合:zPiy→zPiy & yIix → zPix
    • zIiyの場合:zIiy→zIiy & yIix → zIix
  • こうして,(xPiz→yPiz) & (xIiz→yIiz)と(zPiy→zPix) & (zIiy→zIix)が得られました。
  • よって,(xPiz→yPiz) & (xIiz→yRiz)と(zPiy→zPix) & (zIiy→zRix)も成立します。
  • 前者の式より,xRz→yRzが得られます。
    • 定理10*1では,∀i: [(xPiy→zPiy)&(xIiy→zRiy)]から,xRy→zRyを導いたのでした。
    • 今回は,∀i: [(xPiz→yPiz) & (xIiz→yRiz)]が得られています。
    • 定理10*1の式の展開で,yとzを置き換えた式になっています。
    • よって,結果も同様に置き換えて,xRz→yRzが得られました。
  • 後者の式より,zRy→zRxが得られます。
    • 定理10*1では,∀i: [(yPiz→yPix)&(yIiz→yRix)]から,yRz→yRxを導いたのでした。
    • 今回は,∀i: [(zPiy→zPix) & (zIiy→zIRix)]が得られています。
    • 定理10*1の式の展開で,yとzを置き換えた式になっています。
    • よって,結果も同様に置き換えて,zRy→zRxが得られました。
  • 続いての2つの無差別を導出する式はよいでしょう。
  • 準推移性の否定には, (xRy & yRz &zRx)の循環か,(yRx & xRz &zRy)の循環のいずれかが成立する場合があることがまず必要でした。
  • ですが,(xRy & yRz &zRx)の循環か,(yRx & xRz &zRy)の循環のいずれかが成立すると,その3つの関係のうち,少なくとも2つが無差別になってしまうことが確認されました。
  • そうしたときには,循環していても (xPy & yPz & zRxのような事態になりませんので),準推移性は否定されません。
  • 以上より,準推移性の不成立が不可能であることが確認されて,証明終了となります。





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  • 本ホームページは,Amartya Sen先生の『集合的選択と社会的厚生』(日本語版, 勁草書房)の 特定の記述項目について,読む上でのポイントを考えるものです。
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[2015年7月28日 初版をアップ]

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