アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【定理4*1について】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.65 L.18 (定理4*1について) X



  • Arrowの不可能性の定理に対応する,Senの可能性の定理です。 条件U, I, P, Dを満たす例を1つ挙げることで,可能であること(不可能ではないこと)を示そうとしています。
  • xRy⇔〜〔(∀i: yRix)&(∃i:yPix)〕の式はよいでしょう。 「全員がyをxよりも少なくとも同程度以上によいと思っており, 誰か一人がyをxよりも厳密によいと思っている」のでない限りは, xRy(社会的にxはyよりも少なくとも同程度以上によい)とするという考え方です。メンバー内にxPiyというiとyPjxというjの双方がいる場合は,すべてxIyになります。
  • Rが反射性を満たす点:xRy⇔〜〔(∀i: yRix)&(∃i:yPix)〕の右辺のyにxを入れて考えます。xPixとなるようなxは存在しませんので,∃i:xPixは成立しません。よって,〜〔(∀i: xRix)&(∃i:xPix)〕全体としては任意のxに対して成立しますので,∀x: xRxが成立することになり,反射性が成立します。
  • Rが完備性を満たす点:xRyが成立しないのは,〜〔(∀i: yRix)&(∃i:yPix)〕が成立しないときで,それは 「全員がyをxよりも少なくとも同程度以上によいと思っており, 誰か一人がyをxよりも厳密によいと思っている」ときでした。 その場合は,xとyを入れ替えて yRx⇔〜〔(∀i: xRiy)&(∃i:xPiy)〕を考えます。(∀i: xRiyが成立しませんので)〜〔(∀i: xRiy)&(∃i:xPiy)〕は必ず成立し,yRxが成立することが判りました。以上より,xRyが成立しなければyRxが成立する(逆も言えます)ため,完備性を確認できました。
  • 条件P(P.51)が満たされる点:[∀i: xPiy]→xPy となればよいのでした。∀i: xPiyの場合,xRy⇔〜〔(∀i: yRix)&(∃i:yPix)〕はもちろん成立します。また,yRx⇔〜〔(∀i: xRiy)&(∃i:xPiy)〕は成立しません。よって,xRy"〜(yRx)より,xPyが得られ,確認ができました。
  • 条件I(P.51)が満たされる点:この点は,xRy⇔〜〔(∀i: yRix)&(∃i:yPix)〕という式の形が,まったくxとyにのみ依存しており,他の選択肢が定義に関わっていないことを確認できれば十分でしょう。順位評定法(ボルダ投票)のように,他の選択肢がxRyの定義に関わる余地がありませんので,条件I(無関係選択肢からの独立性)は満たされるものと判断されます。
  • 条件D(P.52)が満たされる点:前述のように,メンバー内にxPiyというiとyPjxというjの双方がいる場合は,すべてxIyになります。このように,独裁者の入りうる余地がありませんので,条件Dが満たされることが確認できます。
  • 条件U(P.51)が満たされる点:条件Uは,定義域を無制限に拡大しても,値域があらかじめ設定した条件を満たすこと(今回はC(S,R)が空にならないこと)を要求する条件でした。ここでは,補題1*k(P.22)を使ってこのこと(C(S,R)が空にならないことを)確認しようとしています。

    補題1*kでは,「Rガ有限集合Xにおいて反射的,完備的,準推移的ならば,選択関数C(S,R)がX上で定義される」(「C(S,R)がX上で定義される」はC(S,R)が空でないということ)としていました。反射性と完備性は上記で確認済みでしたから,さらに必要なのは準推移性(PP推移性)のみです。そこでこれを確認します。

    数式の1行目は,Rの定義(xRy⇔〜〔(∀i: yRix)&(∃i:yPix)〕)からの展開です。

    2行目で,(∀i:xRiy)&(∀i:yRiz)に個人レベルの推移性規則を適用して,∀i:xRizを作成しました(全ての個人には順序性を前提していたのでした)。また,(∃i:xPiy)&(∀i:yRiz)から,(∃i:xPiz)を導きました(∃i:xPiyである個人iもyRizが成立しているはずであるため)。

    以下,[∀i:xRiz&(∃i:xPiz)]より,
    →[∀i:xRiz&(∃i:xPiz)]&〜[∀i:zRix &(∃i:zPix)]
    →〜(〜[∀i:xRiz &(∃i:xPiz)])&〜[∀i:zRix &(∃i:zPix)]
    →〜(zRx)&xRz
    → xPz

    以上より,xPy&yPz→xPzが確認でき,準推移性の確認が出来ました。1*kから条件Uが満たされたことを説明して,証明が終了します。






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[2015年7月16日 初版をアップ]

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