アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【P.39 L.10】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.39 L.10 〔補題2*dのあとの第一段落〕 X  

関連項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.39 L.16 中間をとってもよい Y3 間をとってもよい
(→詳細〔準備中〕)



[1] 6行目の「わからないということである」まで

  • 「xPy⇔x##Py」と定めるだけでは, 集合的選択ルールを「定義」したことにならないということを主張しています。
  • 定義2*1より,集合的選択ルールは社会的選好関係Rを1つ導かなくてはいけませんが,それができていない(Rに未確定な部分がある)からです。
  • (Rが「完備でなくてはいけない」というのではなく, 「完備なのか完備でないのか未確定な部分がある」ということが問題です。)
  • 以下のように,考えると判りやすいと思います。
    • 社会的選好関係Rが定義できている場合,一般に,あるx, yを取出すと, (xRyが成立するかどうかで2通り,yRxが成立するかどうかで2通りで)以下の4ケースのうちのいずれか1つに必ず当てはまります。
      • a) xRy & yRx
      • b) xRy & ~yRx
      • c) ~xRy & yRx
      • d) ~xRy & ~yRx
    • ここでa)はxIy(無差別)の場合, b)はxPyの場合, c)はyPxの場合,d)は比較不能(よってRは不完備と言える)の場合です。
    • さて,この段落では任意のx,yに対してx##PyとしてxPyを定義するアプローチを考えており,それに基づいて,あるxとyを取出したとき,そこにx##Pyかy##Pxの関係がある場合には,それぞれ,xPyとみてb)のケース,yPxとみてc)のケースと,ケース分類ができます。
    • ですが,問題はx##Pyでもy##Pxでもない場合です(~(x##Py)&~(y##Px))。つまりxPyでもyPxでもない場合(~(xPy)&~(yPx)) です。
      • まず~(xPy)を考えます。(xPy⇔xRy & ~yRx)なので, ~(xRy)かyRxのどちらか一方が成立していることが考えられます。 (両方成立するとyPxになってしまいますので,これは除外して考えます。)
        • ~(xRy)のみが成立しているとすれば, ~(xRy) & ~(yRx)ということですから,これはd)の不完備な状態を意味することになります。
        • yRxのみが成立しているとすれば, xRy & yRxということですから,これはa)の無差別状態を意味することになります。
        • (著者の「~x##PyであるからといってyRxであるかどうかが決まらない」というのは,この2ケースの議論と考えると判りやすいと思います。 yRxでないケースが一段目,yRxであるケースが二段目です。)
      • おなじ議論で,~(yPx)からもd)の不完備な状態と,a)の無差別状態の2つの可能性があることが結論できます。
      • 結局,~(xPy)&~(yPx)からは,d)の不完備な状態と,a)の無差別状態の2つの可能性があるという結論しかえられませんでした。
      • この点は,以下のような計算を使った説明でまとめることもできます: ~(xPy)&~(yPx)=~(xRy &~(yRx))&~(yRx & ~(xRy))= (~(xRy) or yRx)&(~(yRx) or xRy) =(~(xRy)&~(yRx)) or (~(xRy)& xRy) or (yRx&~(yRx)) or (yRx& xRy) = (~(xRy)&~(yRx))or xIy
    • 以上,a)かd)か判断できないケースがあることが判りました。 このように未確定な部分があり,社会的選択関数を定義できていないことが確認できました。

    [2] 6行目の「われわれは」からの部分について

    • これまでの議論として,まず「xPy⇔x##Py」と定めるだけでは, 集合的選択ルールを「定義」したことにならないという問題があります。
    • 「xPy⇔x##Py」に加えて,以下のことを考え合わせるアプローチを考えます。
      • 「xRy⇔x##Py」を考え合わせるアプローチ
        • 例えば,5名で旅行をして,昼食にカレー屋(x)に行くかオムライス屋(y)にいくかを決めるとします。全員がカレー屋を好めばx##Pyですから,要するにxRyとなります。
        • (この場合はxRyのときに必ず~(yRx)になるので,xPyが成立し,一般にxIyはあり得ません。)
        • ところで,4名がカレー屋(x)を好み,残り1名がどちらでもよければ~(x##Py)かつ~(y##Px)ですから,要するに~(xRy)かつ~(yRx)となります(不完備)。つまり,このアプローチは,選好の布置に制限を設けなければ不完備になり得るということです。
      • 「xRy⇔~(y##Px)」を考え合わせるアプローチ
        • 例えば,5名で旅行をして,昼食にカレー屋(x)に行くかオムライス屋(y)にいくかを決めるとします。5名全員がカレー屋を好めば ~(y##Px)ですから,要するにxRyとなります。
        • このとき,~(x##Py)は成立しません(x##Pyである)ので,よって~(yRx)です。つまり,xRyかつ~(yRx)ということなので,xPyが成立します
        • また別のケースとして,1名がカレー屋(x)を好み,また1名がオムライス屋を好み,残り3名がどちらでもよければ~(x##Py)かつ~(y##Px)ですから,要するにyRxかつxRyとなります(xIy)。これらはいずれも例ですが,このアプローチは選好の布置に制限を設けなくても必ずxPy, yPx, xIyのいずれかが成立することになります。不完備になることはありません。
      • その他の可能性
        • その他の可能性には色々あります。不完備になりうるものも完備なものもあります。例えば,多数決は完備です。また「二人以上がxをyよりも明示的に好んだらxRy」などとすると,不完備になり得ることになります(例えば,上記のカレー1名,オムライス1名,同等3名の場合に~(xRy)かつ~(yRx)になります)。





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[2011年7月14日 初版をアップ] (最終アップデート:2013年7月23日)


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