アマルティア・センの『集合的選択と社会的厚生』を開く

II.読解のポイントを探る 【p.21 L.7】

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検討項目

位置 検討する部分 種別 訂正案, コメント
P.21 L.7 汎関数 Y1 関数関係



  • 該当部分の原文が名詞の"functional"であれば「汎関数」となります。 (汎関数は,通常,関数に対して何らかの要素を割り当てるメタレベルの関数を指します。) ですが,該当部分の原文は"functional relation"で,この"functional"は「関数の」という形容詞ですから,「関数関係」の訳でよいでしょう。
  • functional relationは二項関係の一種で,その二項の間に関数的な対応がある場合です。

    例えば,集合Aと集合Bを基礎とした関係Rを考えて,1) 2つの異なるa1, a2∈Aに関して,同じb1∈Bが対応づけられるのは可とするが,2) 2つの異なるb1, b2∈Bに関して,同じa1∈Aが対応づけられるのは認めない(つまり「a1Rb1&a1Rb2→b1=b2」)とするような場合です。(※狭義の二項関係は集合A, Bを同一の集合としますが,その場合でも考え方は同様です。)

  • functional relationの基本にあるのは,(定義域の1要素に値域の1要素を対応づけるという)写像の概念です。そこでそれほど深い問題ではなく,ここでは,要するに通常の意味での「関数」の関係と考えてよいでしょう。
  • (文脈的に考えても,ここでは「汎関数」より「関数関係」の方が適当に思われます。)
  • 本書の中には確かにfunctional「汎関数」の議論もありますが,著者はこれとは区別してfunctional relationの表現を使っているように思われます。具体的には下記の部分でfunctional relationという表現が使われている模様で,本訳書でもおおむね「関数関係」と訳されています。

    位置 和文
    訳書P.21 (第1*章 定義1*8) 汎関数
    訳書P.24 (第1*章 注釈9) 関数関係
    訳書P.37 (第2*章 定義2*1) 関数関係
    訳書P.152 (第8*章 定義8*1) 関数関係
    訳書P.154 (第8*章 定義8*2) 関数関係
    訳書P.184 (第9*章 定義9*4) 関数

    (定義9*4も「関数関係」の方が良いかと思われます。)





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[2011年7月31日 初版をアップ](最終アップデート 2013年7月27日)


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